師範のひとり言Vol.3 習い事の先にある“成長のかたち”

師範のひとり言

学校が終わった後の放課後は、子ども達にとって“習い事の時間”。
スイミングクラブ、ピアノ教室、そろばん教室、書道教室、ダンス教室など——その種類は本当に多岐にわたります。

けれど、そのどれもが「少しでも我が子に良い経験を」「成長してほしい」という親の願いから始まるものではないでしょうか。

私が指導を行っている古賀道場も、いわば“習い事”のひとつ。
けれど、ただ技術や体力を磨く場ではなく、子ども達の“心の成長”をどう支えるかという点で、習い事の本質が見えてくるように思います。

今回は、実際に指導の現場に立つ者として、
「習い事が子どもをどう成長させるのか」について、少しお話ししてみたいと思います。

何を目的に習い事をさせるのか

私が指導している古賀道場には、毎年多くの入門者が門を叩いてやって来ます。
その多くは、子ども自身の意思というよりも、親のすすめで入門してくるケースです。

そこには、武道──すなわち空手という習い事に対して、親御さんのさまざまな願いが込められています。
「心と身体を強く育ってほしい」
「優しい心を養ってほしい」
「元気いっぱいに成長してほしい」
「礼儀を重んじる人になってほしい」
そんな親の思いが、ひとりひとりの子どもの姿を通して伝わってきます。

稽古を重ねていくうちに、子ども達は少しずつ上達していきます。
大会に出場して勝敗を経験したり、昇級審査で新しい帯を手にしたり──
その過程の中で、親は“我が子の成長”を目に見えて感じるようになります。

すると今度は、応援する側の気持ちも少しずつ変化していきます。
「大会で勝ってほしい」
「黒帯を目指して頑張ってほしい」
「もっとイキイキと空手を楽しんでほしい」
そんな具合に、親の思いもより具体的になっていきます。

子どもの成長が見え始めると、道場と親、そして子どもの関係は自然と安定していくものです。
しかし、その段階に至るまでが、習い事における最初の大きなハードルのように感じます。

このハードルを越える前に辞めてしまう子もいれば、越えられずに長く通っていても成長につながらないケースもあります。
だからこそ、指導者としてはこの“最初の壁”をどう乗り越えさせるかが、何より大切なのです。

習い事を自分事に

古賀道場では、空手の稽古を「習い事」ではなく、自分事として取り組むことが大切だと伝えています。

入門したばかりのころ、子ども達はみな「習い事」として稽古を始めます。
決まった曜日に道場へ来て、先生に教えてもらう──いわば“受け身の学び”の段階です。

しかし、稽古を重ねるうちに、少しずつ変化が生まれます。
大会に出場して「勝ちたい」と思うようになったり、昇級審査で「合格したい」と願うようになったり。
その瞬間、空手は“誰かにやらされるもの”ではなく、“自分で挑むもの”へと変わっていくのです。

これこそが、先述した第一のハードルです。
私は、習い事がいつまでも“習い事のまま”では、子どもの大きな成長は望めないと考えています。

そしてこの変化は、子どもだけでなく、親の意識の変化も同じように求められます。
「子どもの習い事」から、「子ども自身の挑戦」へ。
親もまた、見守る姿勢へと少しずつシフトしていくことが大切です。

最初は親に勧められて始めた空手。
けれど、いつしかそれが自分の意志に変わったとき、親の“こうなってほしい”という願いは、静かにその役目を終えます。

そこからは、子ども自身の目標と努力の物語が始まるのです。
その時、親にできるのはただひとつ──
遠くから見守り、応援すること。
その距離の変化こそが、子どもの成長の証なのだと、私は感じています。

いろんな経験を生かすことが重要

現代では、本当に多岐にわたる習い事があり、親の興味を、そして子ども達の好奇心を大きく揺さぶります。

「小さい頃からピアノを習っていれば、将来に役立つかも」
「そろばんを習えば、頭の回転が速くなるかも」
「スイミングに通わせたら、病気をしない強い身体に育つかも」

──どれも間違いではありません。
しかし、それもすべて、これまで述べてきたように子ども自身の意識の変化が前提になります。

いくら小さい頃からピアノ教室に通っていても、それが“習い事の域”を越えなければ、そこに望んでいるような大きな成長はないのかもしれません。

たとえば、スイミングクラブに通いながら、ダンス教室にも通っている子がいたとします。
もしその子が「ダンスを上手くなりたい」という明確な意識を持っていれば、スイミングでのレッスンもダンスの上達のための生きたものへとなっていくのでしょう。
しかし、どちらも“ただ通っているだけ”の習い事であるなら、どちらも中途半端な結果で終わってしまうかもしれません。

現代は、たくさんの体験や選択肢に恵まれた時代です。
だからこそ、**「これは自分にとって何のための経験なのか」**を明確にすることが大切なのです。

それが見えていないまま時間と費用を費やしてしまえば、せっかくの習い事がただの消費で終わってしまう──。
私はそうならないように、子ども達には“学びを自分の道へと昇華させる力”を身につけてほしいと願っています。

まとめ

古賀道場では、今日も多くの子ども達が稽古に励んでいます。
その多くは、自分の目標を胸に、自らの意志で汗を流しています。

しかし残念ながら、いまだに「習い事の一つ」としてしか捉えられていない親御さんも少なくありません。
そのような場合、子どもがどれほど真剣に打ち込んでいても、親の関心が薄く、
その努力や成長に気づかれないままになってしまうことがあります。

それこそが、子どもの大きな成長を阻む“見えない壁”となるのです。

これからお子様に習い事をさせようと考えている方も多いでしょう。
どうか次のことを心に留めてください。

  • 何のために、その習い事をさせるのか。
  • その習い事は、やがてお子様の「自分事」として育っていくものか。
  • 親として、見守り、支え、応援する覚悟があるか。

この三つの問いをしっかりと見つめた上で、
お子様にとっての「習い事」が、単なる通い事ではなく、
人生を支える学びの時間となるよう願ってやみません。

古賀 大之

空手道師範として17年間、武道を通じて青少年の育成に携わってきました。
その経験をもとに、学校教育では得られない新しい学びの形を探求しています。
武道で培った教育の知恵を活かし、子どもたちの未来を切り拓くことが私のライフワークです。

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