師範のひとり言Vol.5 イソップ童話『うさぎとかめ』に学ぶ、成長の『道』

師範のひとり言

古賀道場では、よく「亀になろう!」という言葉を口にします。

……なぜ亀?と思う人も多いでしょう。

ある時のことです。
空手道の昇級審査を受けた一人の子がいました。
彼は決して成長スピードが速いタイプではありませんでしたが、
地道な努力を積み重ね、ようやく昇級を果たしたのです。

その時、私が彼にかけた言葉が――
「君は亀でいいんだよ!」でした。

すると、後日その子のお母さんが尋ねに来ました。
「先生、亀でいいんだよって、どういう意味ですか?」と。

……たしかにそうですよね。
亀といえば、昔から“のろま”の代名詞のような存在です。
その亀でいいなんて、普通なら褒め言葉に聞こえないかもしれません。

けれど、イソップ童話『ウサギとカメ』を少し深く考えてみると、
そこには子ども達の「成長」と「歩むこと」の本質が
しっかりと描かれているのです。

『うさぎとかめ』──なぜ、かめは勝てたのか?

イソップ童話『うさぎとかめ』は、世界中の誰もが知る有名なお話です。

ある日、うさぎがかめに競争を持ちかけます。
丘の上のゴールまで競争をしようと。
結果はご存じの通り――のろまなかめに油断したうさぎが昼寝をしてしまい、
その間にかめがうさぎを抜き去り、勝利します。

このお話をそのまま読み解くと、
「かめが勝てたのは、うさぎが油断したから」
というのが一般的な解釈でしょう。

しかし、もう少し深く考えてみると、
別の視点が見えてきます。

もし、あなたがかめだったとしたら……
うさぎがあっという間に姿を消しても、
その競争を続けるでしょうか?
うさぎが持ちかけたこの競争に、
最後まで意味を見出せるでしょうか?

正直、私なら途中で「もうやめた!」と言ってしまうかもしれません。

それでも、かめは歩くのをやめなかった。
それは、なぜでしょうか。

そして、うさぎはなぜ油断して昼寝をしてしまったのか。

――ここに、この物語の本当の意味が隠れているように思うのです。

うさぎが昼寝をしたのは、うさぎが“かめと競争していた”から。
一方、かめが歩くのをやめなかったのは、“ゴールを目指していた”からです。

つまり、
うさぎは他者を意識して走り、
かめは自分の目的に向かって歩き続けたのです。

最初は「うさぎに勝つこと」だったはずの競争が、
いつの間にか「自分がゴールにたどり着くこと」へと変わっていった。
そこに、かめの強さがありました。

このお話を“人生”に置き換えてみると、
私たちは誰かと競うよりも、
自分の目指す“道”を歩み続けることの大切さを教えられているように思います。

モチベーションと規律

『うさぎとかめ』の物語では、二人の競争は“遊び”から始まりました。
つまり、この競争が終われば物語も終わります。

けれど、これを「人生」に置き換えるとどうでしょう。
人生という物語は、ゴールが見えないほど長く続いていきます。

もしその人生を、誰かと競い合い、
誰かと比較し続ける形で歩もうとしたら――
それを維持するためには、途方もないエネルギー、
すなわち「モチベーション」が必要になります。

うさぎは、このモチベーションが尽きたからこそ、油断し、眠ってしまったのではないでしょうか。

では、かめはどうだったでしょう。
かめはモチベーションによって歩き続けたのでしょうか?

いえ、違います。

かめは、ただ“自分の歩むべき道”を、淡々と歩き続けただけです。
そこに特別な気合いやテンションは必要ありません。

必要だったのは「規律」です。

自分の歩みを止めないために必要なのは、
一時的なやる気ではなく、「当たり前にやる」という習慣

人生の中で、モチベーションを常に高く保ち続けることはできません。
モチベーションは波のように上がりも下がりもするものです。
だから、モチベーションだけを頼りに生きていると、
いつか必ず歩みを止める瞬間が訪れます。

けれど、規律によって“当たり前に”歩き続けることができれば、
その歩みは決して速くはなくとも、止まることはありません。

――これこそが、うさぎとかめの「決定的な違い」なのだと思います。

人生とはゴール無き道を歩くようなもの

日本には「道(どう)」という言葉があります。

剣道、柔道、空手道。
茶道、華道、書道。

日本の文化を象徴するものの多くには、この「道」がついています。

ご存じのとおり、剣道はもとは「剣術」、柔道は「柔術」。
本来は“相手を倒すための術”でした。
しかし時代とともに、その目的は“他者を倒す”ことから“己を磨く”ことへと変化し、
「術」から「道」へと昇華していったのです。

私が長年歩んできた空手道もまた同じです。
それは、己が目指すものへ少しずつでも近づくための「道」。

私自身、長い年月この道を歩んできました。
けれど、最近気づいたのです。

――この「道」の先には、決してゴールはない。

どれだけ歩こうと、進もうと、
その先に“終わり”というものは存在しません。

ただただ、永遠に続く道を、
今日もまた一歩ずつ歩いていく。

そのために必要なのはモチベーションではなく、
「歩くことをやめない」という規律です。
日々、当たり前のように前へ進むという心の習慣。

人生もまた同じです。

人はそれぞれ、自分の人生という道を懸命に生きています。
その中で、さまざまな目標や夢があり、
それらを達成するためにモチベーションが必要な時もあるでしょう。

けれど、それはあくまで一時の“燃料”であって、
人生という「道」そのものを歩み続ける力とは違います。

長い人生を歩んでいくために本当に必要なのは――目的です。

「自分は何のためにこの道を歩いているのか。」
その問いに向き合い続けること。

それこそが、生きる意味であり、
そして自らを律する“規律”を生み出す源になるのだと思います。

まとめ|かめになろう!

古賀道場で、子どもたちに「かめになろう!」と伝えている意味を、
少しご理解いただけたでしょうか。

どんなに歩みが遅くても、歩みを止めなければ、
いつか必ず目的にたどり着くことができます。

私は子どもたちに、
黒帯を目指すうえで「誰より早く」とか「後から始めた子に抜かれた」といった
小さなことにとらわれず、
自分の歩むべき“道”を、規律正しく歩き続けることの大切さを伝えています。

この道場での学びが、
やがて彼らが自分の人生を自分の足で歩き始めたとき、
その心の中でしっかりと息づき、
歩く力となってくれることを願っています。

長い人生の中で、誰かと競い合い、学びを高め合うことは大切です。
けれど、それはあくまで“自分を磨くための目的”としてであり、
他人と比べるためではありません。

本来、自分が歩む「道」には、
自分以外の誰かが入り込むことはできません。
それは、ただひとつ――自分だけの道だからです。
そこに、うさぎが入り込む余地など、最初からないのです。

私たち日本人は、この「道」という考え方を持っています。
それは、自分の人生を自分らしく歩んでいくうえで、
とても大切で、ありがたい文化だと思います。

これからの日本の子どもたちにも、
幼いころから「道」を学び、
“自分の歩み”を大切にできる人に育ってほしいと願っています。

古賀 大之

空手道師範として17年間、武道を通じて青少年の育成に携わってきました。
その経験をもとに、学校教育では得られない新しい学びの形を探求しています。
武道で培った教育の知恵を活かし、子どもたちの未来を切り拓くことが私のライフワークです。

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