師範のひとり言VOL.4 「知ってる」から「気づき」に変化する成長

師範のひとり言

空手道の上達は、見取り稽古・口伝・体得という三つの学びの循環で深まります。
まずは人の動きを見て学ぶ(見取り稽古)。つぎに言葉で教えの理を受け取る(口伝)。そして繰り返しの実践で身体に染み込ませる(体得)。この順に、理解は外側から内側へと育っていきます。

しかし、ここに落とし穴があります。こちらが言葉でどれだけ説いても、それがそのまま「伝わる」わけではないということ。子どもたちは「聞いたことがある」「知っている」という感覚は持っていても、実際には頭に入っていない/身についていないことが少なくありません。

今日のテーマは、まさにこの差です。
「知っている」止まりなのか、それとも「気づいた」に変わったのか。

子どもの成長に不可欠なこの**「気づき」**について、もう一段深く考えていきます。

「知ってる」と「気づき」は大違い

私たち指導者は、子どもたちの上達と成長を「気づき」から実感します。

「お、この子は気づいたな!」
「やっと、そこに気づいたか!」

——そんな瞬間が、私たちにとって成長の確信となるのです。

しかし、多くの子どもたちは「知っている」と思っている段階で止まってしまいます。
「知っている」と思うがゆえに、その先を探ろうとせず、疑問を持つこともなくなるのです。


簡単に「知ってる」と「気づき」の違いを例えると——

誰もが「火は熱い」と知っていますよね?
でも、それは“知識”としての理解に過ぎません。

実際に火に手を近づけ、熱さを体で感じた瞬間
初めて「火って本当に熱いんだ!」と気づくのです。

その瞬間から、火の扱い方が変わります。
これこそが、「知っている」と「気づき」の決定的な違いなのです。

「気づき」を促す指導法

古賀道場での指導では、子どもたちが**「気づく」ことができるように促す**ことを何より大切にしています。

しかし、人が「気づく」瞬間というのは、ことわざにもあるように——
**「お尻に火がついてから」**という場面が多いものです。
つまり、気づいた時にはすでに手遅れ……そんな経験を経て初めて、本当の学びが生まれることがあります。


例えば、稽古中になかなか集中できず、話を聞かず、真剣に取り組めていない子がいたとします。
私はもちろん注意はしますが、ひどく叱ることはしません。

なぜなら、叱っても本人は「わかった」と頭で理解したつもりになるだけで、
「気づき」には至らないことが多いからです。
先に述べたように、言葉で伝えるだけでは「知っている」にとどまってしまうのです。


そこで私は、その子が自分で「気づける」ように、
**昇級審査会のような“気づきの場”**を活用します。

待ちに待った昇級審査会で、あえて厳しく不合格を伝えることがあります。
その瞬間、子どもはハッとするのです。
「自分のやり方では通用しない」——その事実に初めて気づく

この気づきこそが、次の成長への扉です。
一度その瞬間を経験した子は、稽古への姿勢や意識が見違えるほど変わっていきます。


このような「気づきの機会」は、日々の稽古の中にも、
また大会のような特別な場面にも、いくつも存在します。

私たち指導者の使命は、
子どもたちがその一つひとつの中で、
「良い気づき」と出会えるよう導いていくことなのです。

気づいたら後は成長あるのみ

自分の成長や目標に向かって上達を目指す中で、良い気づきを得た子どもたちは確実に変化していきます。

「知っている」から「気づいた」に変化した瞬間、
その子の中で理解の深さが一段変わります。
ただ“知っている”ではなく、自分の中で意味づけしようとするのです。

やがて、自分に必要な事柄に対してアンテナが立つようになります。
アンテナが立った子は、私の言葉を一つも聞き逃さず、
それをすべて自分の上達の“肥やし”にしていきます。
見本を真剣に見るようになり、稽古中にも自分の動きに疑問を持つようになります。

疑問を持つということは、考えること。
考えるからこそ、技も心もどんどん自分のものへと成長していくのです。


「気づき」を得た子どもたちは、自然と努力を始めます。
まわりから見れば「すごく頑張っているように見える」かもしれません。
けれど本人にとっては、それは**努力ではなく“当たり前”**のこと。
自分の目標に向かって、やるべきことをただ淡々と積み重ねているだけなのです。

実は“努力”という言葉は、他人が認めてくれる評価なのかもしれません。
「自分は努力している!」と言う人ほど、
まだどこかに余力を残していることが多い。
だからこそ、そうした人はなかなか望む成果を手にできないのです。


「気づき」を得た子どもたちは、確実に成長していきます。
それは外からの強制ではなく、自分の内から芽生えた力によって成長していく。
この瞬間こそが、教育や指導の中で最も嬉しい瞬間だと、私は感じています。

まとめ

人の成長において、**「気づき」**は大きな影響を与えます。

私たち大人でさえ、まだまだ「気づけていない」ことがたくさんあります。
当たり前だと思っていたことが、実はそうではなかった——そんなことに後から気づかされることも多いものです。


子どもたちの成長においても、この「気づき」を与えることはとても重要です。
そして同時に、それが最も難しいことでもあります。

「勉強できるようになってほしい」と願っても、
「勉強しなさい!」「やりなさい!」と繰り返しても、
本人が気づかない限り、心には響きません。

いくら「勉強しないと困るよ」と言葉で伝えても、
その言葉が“気づき”に変わらなければ、行動は変わらないのです。


子どもの成長を本当に望むなら、
まずは「どうすればこの子が自分で気づけるか」を考えること。
その工夫こそが、教育の本質だと思います。


これを読んでくださっているお父さん、お母さんにも、
ぜひお子さんが「自分で気づける」ようなきっかけを、日々の中で与えてあげてください。

その一つひとつの“気づき”が、きっとお子さんの人生を大きく成長させていくはずです。

「教える」ことよりも、「気づかせる」こと。
それが、子どもたちの未来を明るく照らす最初の一歩です。

古賀 大之

空手道師範として17年間、武道を通じて青少年の育成に携わってきました。
その経験をもとに、学校教育では得られない新しい学びの形を探求しています。
武道で培った教育の知恵を活かし、子どもたちの未来を切り拓くことが私のライフワークです。

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