といといといの森Vol.7|母親は 生んだだけで100億点

細川 亮のといといといの森

「40を超える息子のことで、聞いてもらいたいんです。」

今日は、佐賀駅南口のテラスに座っていたら
御婦人が話しかけてきた。

彼女は「お金はかかるんですか?」と聞いてくるから。
僕は
「お代は本音ですね」と書いてあるままを伝えた。

彼女は
「では、お話聞いてもらっていいでしょうか」と隣に座り
経緯を話し始めた。

彼女は、息子さんが10代の頃に夫と離婚したこと。
それ以来、女手一つで息子さんを育ててきたこと。
自分なりに懸命に子育てしてきたこと。

一方で、息子さんは30歳ぐらいまで
なかなか定職に就けなかったこと。

息子さんは、友人のつながりで好きな仕事に就けたときは
穏やかで、集中して仕事に取り組み、イキイキしていたこと。

ただ、その仕事も会社の都合でできなくなったこと。
さらに、原因不明の体の痛みや、癇癪が激しく出るようになり
結果的に住んでいた場所を追われることになったこと。

周りの人から「息子はキチガイだ」と言われ
その原因は母親であるあなたに在ると、何人にも言われたこと。

そして最近、息子からも
「お母さんの顔が怖い。俺は独り立ちしたい」と言われ
実際に支援を受けながら働き始めたら、今はイキイキしていること。

自分は結局どうしたらいいのか。
今も悩み、考えていること。

そんなふうなことを話した。

見守ることも、愛なのかもしれない

僕は、彼女の見ている景色をともに眺めるように聴いていた。

一通り話して、彼女は
「ここまで聞いてみて、私はどうしたら良いと思いますか?」
と尋ねてきた。

僕は
「息子さんが実際イキイキされているとのことですから
独り立ちするように見守ったら良いんじゃないかと思いました」

「むしろ、お姉さん自身が自分の人生を
思い切り歩んだらいいんじゃないかと、僕は想いますね」
と答えた。

彼女は
「やっぱり、息子が独り立ちできるように
私がもっとしっかりしないとダメですよね」というから。

僕は
「そもそもなんですが、息子さんを生んだこと。
その時点でお姉さんの母親としての役割は、完全に全うされていると思うんです」

「それどころか、成人するところまで、しっかり子育てもされた。
もう十二分すぎるじゃないですか」

「息子さんは違う人間ですから、息子さんは息子さんで生きていきますよ」

「お姉さんは母親としての役割を、とうの昔に全うし。
むしろやりきったのですから、堂々と自分の人生を生きてください」
と思ったままを伝えた。

「あなた自身の人生を生きなさい」

彼女は少し感じた後に

「そうなんでしょうね。デイサービスの方からも言われました。
あなたが笑顔でいることが、息子さんにとっても喜びなんだから」

「あなた自身の人生を生きなさい、って」

「でも、こうやってお話しできてよかったです。とてもスッキリしました。
本当に出会えてよかった。ありがとうございます」
と、気持ちを伝えてくれた。

僕は
「僕もいい音が聞けました。
こうやってお会いするために、僕は座っているので」

「あなたと会えてよかったです」と伝えた。

「そのまんまを聴く」ということ

彼女は途中

「こんなことを誰に相談すれば良いのかもわからないんです。
市役所の人も聞いてはくれない。周りにも聞いてくれる人もいない」

という旨のことを言っていた。

たしかに。

はたから見れば、地獄の様相である話を、誰も聞きたくはないだろう。
聴いたところで、同情するか、逆に裁くか。それが関の山だ。

「そのまんまを聴く」というのは、簡単なようで難しい。

僕みたいな、ただ「いい音が聴きたい」という酔狂な趣味を持っているやつは
うっかり役に立ってしまうこともあるものだな、なんて思うのであった。

母親は、生んだだけで100億点

いずれにせよ。

僕は、母親というのは生んだ時点でとんでもなく偉大であると思う。
そこに優劣なんて無い。

命の絶対的な輝きは、そこから始まるのだから。

しかし、母親の皆さんが「こんなの当然なんで」みたいな顔してるから
社会がそこに甘えて「産んで当然」みたいな面をするのは、それまた違う。

僕たちは、よく理解しておかねばならない。

とんでもないことをしている母親がいて
それでいて、そこに奢らず、さも当然のようにしているという。

とんでもないことだ。

だから、ここまで読んだあなたぐらいは心得てくれ。

「生んだだけで100億点」と。

細川亮

細川 亮(ほそかわ りょう)
「みえるか企画」代表。「人間臭さ、歓迎。」をスタンスに、「一番痛い本質」に光を当てる「鏡」としての「問いかけの人」。
2022年、PCの文字を読む能力を失ったことを転機に、「見えないからこそ、見える世界」の探求を本格化。五感を開き「余白」を生み出す「ゆるコーヒー講座」は、佐賀県教職員互助会などからの依頼を受け開講され、累計250名以上が受講。
また、これまでのすべての活動を通じた累計1,000人以上にのぼる対話経験を活かし、1on1で「本質的な問い」と向き合う新企画「哲学対話-Takibi-」を2025年11月に始動。
著書に『みえるか Vol.1 便利は幸せなのか。不便は不幸なのか。』(武雄市図書館でのトークイベント登壇など)。「便利さ」や「生産性」が追求される現代社会に、根源的な問いを投げかける。
SAGAローカリストアカデミー2025選出。SAGA2024全国障害者スポーツ大会 陸上競技100m銀メダリスト。

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