佐賀市城内に、気になるお店がある。
「暮らしのとなり商店」と書かれたそのお店の前には、
どれも美味しそうな手作りのおにぎりが並んでいる。
一見すると、今流行りのおにぎり専門店のようにも思える。
けれど、ここはただのおにぎり屋さんではなかった。
そこは、店主・西岡あきこさんの想いがぎゅっと詰まった、
人々がほんの少し疲れた心をほどきに立ち寄る、
佐賀の街の「止まり木」のような居場所だった。
手作りのおにぎりと駄菓子で子どもたちの空腹と心を満たしながら、
その一方で、ほんの少し疲れた大人たちも、
癒しを求めてふらりと立ち寄っていく。
今回は、そんな「暮らしのとなり商店」と、
その場所をつくり続ける西岡さんの想いについて、
お話を伺ってきました。

暮らしのとなり商店
佐賀市城内。
県立博物館の斜め前に、ひっそりと佇む小さなお店がある。
お店の扉を開けて中に入ると、小さなカウンターがひとつ。
大人が三人も入れば、少し窮屈に感じるほどの、決して広くはない店内だ。
でも、不思議と落ち着く。

カウンターの上には、ショーケースに並べられた美味しそうなおにぎりたち。
まるで「早く誰か来ないかな」と、
お客さんの来店を心待ちにしているかのようだ。
店の片隅には、
見ているだけで昔を思い出し、今でも心がワクワクしてくる駄菓子たち。
放課後にやって来る子どもたちを、静かに待っている。

厨房では、店主の西岡さんが今日も忙しそうに、
それでいて楽しそうに、おにぎりを握っている。
いそいそと手を動かしながらも、
誰かが扉を開けて入ってくると、
ぱっと顔を上げ、満面の笑顔で出迎えてくれる。
そして、自然と始まる世間話。

西岡さんの軽快な口調に、不思議とこちらも心を開き、
気がつけば会話にすっと溶け込んでしまう。
「暮らしのとなり商店」は、
お店に入ってすぐに気づかされる。
ここは、ただのおにぎり屋さんではない。
ただの駄菓子屋でもない。
人が、ほんの少し立ち止まり、
心をほどくための空気をまとった、
そんな特別な居場所なのだ。
おにぎり屋と駄菓子屋
放課後、近くの小学校の下校時間になると、
「暮らしのとなり商店」は急に賑やかになってくる。
学校帰りのお腹を空かせた子どもたちが、
おにぎりや駄菓子を求めて、次々とお店に立ち寄るのだ。
店主の西岡さんが、もともとやりたかったのは、
子どもたちの憩いの場となる「駄菓子屋」だった。
その想いが形となり、
「暮らしのとなり商店」はオープンした。
とはいえ、駄菓子だけでは経営が成り立たない。
そこで西岡さんは、
昔から自分の息子に握ってきた“おにぎり”を
商品として販売することにした。
西岡さんのおにぎりは、
佐賀県産米を土鍋で炊いて作られている。
だから、お米一粒一粒が立ち、
口に入れた瞬間に「本当に美味しい」と感じる。
海苔には、初摘みの佐賀海苔を使用。
おにぎりとの相性は抜群だ。


すべて手作りで、防腐剤や余計なものは一切使わない。
その日のうちに食べる必要はあるが、
時間が経っても、しっかりと美味しさが残っている。
このお店に来るのは、
学校帰りでお腹を空かせた子どもたち。
「お腹いっぱい食べてほしい」
その想いから、おにぎりの価格は100円。
子どもたちでも無理なく買える値段だ。
さらに、子どもたちには温かいお味噌汁が飲み放題。
日によっては、おにぎりをお代わりさせてくれることもあるという。
だから、自然と子どもたちはここに長居をする。
そして、長居をするからこそ、
西岡さんとの会話が、少しずつ深まっていく。
「駄菓子屋のおばちゃん」
そんな呼ばれ方をしているのだろうと思っていた。
けれど、ここでは違った。
子どもたちは、西岡さんのことを
「先生」と呼んでいるという。
お店の人なのに、「先生」。
その呼び方には、深い意味があるように感じた。
それだけ、子どもたちとの間に、
信頼関係が築かれてきたのだろう。
「ここに来た子どもたちは、
だんだんと夢を語ってくれるようになったり、
困っていることや、家のことを話してくれるようになったんです。」
そう、西岡さんは静かに話してくれた。
手作りの美味しいおにぎりと、
温かいお味噌汁で空腹を満たし、
そっと寄り添いながら話を聞く。
このお店には、
西岡さんのそんな温かさが、
自然と満ちているように感じられた。
止まり木のような居場所
西岡さんのこのお店には、
子どもたちだけでなく、もちろん大人のお客さんも訪れる。
西岡さんが握る美味しいおにぎりを目当てに来る人もいれば、
この止まり木のように落ち着く空間で、
そっと疲れた心を癒しに来る人もいるという。
お店のカウンターに腰を下ろすと、
自然と西岡さんとの会話が始まる。
西岡さんは本当におしゃべりが好きな人で、
よく話し、よく笑う。
けれど、それ以上に印象的なのは、
こちらが話し始めたときの「聞き方」だ。
相槌を打ちながら、急かすことなく耳を傾け、
必要なときだけ、そっと言葉を添えてくれる。
カウンター越しのこの距離感が、
不思議なほど心地いい。

ここには、
子育てや仕事、人間関係に悩みながら、
ふらりと立ち寄る大人たちがいる。
西岡さんに話を聞いてもらい、
時には少しだけ背中を押してもらいながら、
ほんのひととき、心を休ませていく。
まさに、ここは
人が羽を休めるための
止まり木のような居場所だ。
そこには、
「お節介」と言ってしまえばそれまでだが、
訪れた人一人ひとりに寄り添い、
親身になって話を聞く西岡さんの姿がある。
今の時代、
こうした“お節介”な人に出会うことは、
ずいぶん少なくなった。
けれど、昔はきっと、
誰かのお節介に救われながら、
人は生きてきたのだろう。
この場所に流れる空気は、
そんなことを、静かに思い出させてくれる。
さいごに
子ども食堂や、子どもの居場所は、
今、日本各地でその数を増やしている。
けれど、「居場所」の役割は、
きっと一つではない。
ひとりで食事をしていた子どもが、
誰かと一緒に温かいご飯を食べる場所。
誰にも言えなかった気持ちを、
そっと受け止めてもらいながら、
心を休ませることができる場所。
そこにはいつも、
温かい食事と、
温かい人の心があり、
それを求める人たちを静かに満たしてくれる。
それが、「居場所」なのだと思う。
西岡さんの「暮らしのとなり商店」は、
まさに、
空腹を満たし、
孤独を癒し、
そして、疲れた心をそっと休ませてくれる場所だ。
もし、少し立ち止まりたくなったとき。
もし、誰かに話を聞いてほしいと思ったとき。
ふらりと、立ち寄ってみてほしい。
そこには、
いつでも、誰にでも、
変わらない笑顔で迎えてくれる
西岡さんが待っている。

| お店 | 暮らしのとなり商店 |
| 場所 | 佐賀県佐賀市城内2丁目12−14 |
| 営業日 | 火曜日・木曜日 11時~17時 |
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