古賀道場には、稽古中に“言ってはいけない言葉”があります。
「キツイ」
「暑い」
「疲れた」
「お腹すいた」
このあたりは、ちょっとした冗談まじりで子どもたちに伝えているものですが──
実は、古賀道場には 絶対に口にしてはいけない“禁句”が2つ あります。
それが、
「死ぬ」
そして
「無理」
です。
今の子どもたちは、驚くほど軽い気持ちで口にします。
ちょっと転べば「死ぬ〜!」、少し難しければ「無理〜!」。
でも、言葉には“力”があります。
古来より「言霊(ことだま)」として大切にされてきたように、
口にする言葉は、そのまま思考に入り込み、行動を縛り、未来の可能性に影響を与えます。
特に「無理」という言葉は、
これから挑もうとする自分自身の可能性に、
自らフタをしてしまう、とても強くて危険な言葉。
だからこそ古賀道場では、TOP2の禁句として、
子どもたちにしっかりと伝えています。
今回のコラムでは、
子どもを育てるうえで欠かせない “言葉の力” について、
師範の視点から、私自身の戒めの念も込めながら、すこし呟いてみたいと思います。

言葉の持つ力
私自身、子どもの頃は勉強ができる方ではありませんでした。
というより……勉強が大嫌いで、遊んでばかりの怠け者。
当然、学校の成績は散々で、いわゆる“落ちこぼれ”。
昔の私を知っている旧友は、今の私が子どもたちから「先生」と呼ばれていることを知ると、鼻で笑うほどです。
そんな自分だったので、
「自分は頭が悪い人間なんだ」
と勝手に思い込み、その思い込みがさらに勉強から遠ざける悪循環になっていました。
しかし──。
師であり、叔父でもある古賀道場の創設者・先代の古賀武夫先生は、そんな私にこう言ってくれたのです。
「お前は、本当に頭がいい!」
当時の私は、正直まったく信じていませんでした。
でも今は確信しています。
あのとき師がかけてくれた言葉が、私の心と人生の中で、今も確かに“生き続けている”ということを。
そう、言葉には「力」がある のです。
教育とは、言葉で伝え、言葉で導いていく営みです。
だからこそ、その言葉の使い方には細心の注意が必要です。
私自身、指導者として20年間、たくさん反省すべき言葉の使い方をしてしまったこともあります。
だからこそ、今まさに子育てをしている親御さんには、この教訓を知っていただきたいのです。
言葉ひとつで、子どもの成長の方向はまっすぐにも、曲がることもある。
その事実を知るだけで、子どもとの関わりは確実に変わっていきます。
伝えるべき言葉とそうでない言葉
小さい頃から「バカ」と言われ続けると、子どもは本当に自分を“バカなんだ”と思い込んでしまいます。
私自身もそうでした。
友人に冗談のつもりで言われた言葉であっても、毎日のように浴び続けると、心の中にそのまま刻み込まれてしまうものです。
以前、道場に通われている保護者の方が、こんなふうに話されたことがあります。
「あいつは本当に馬鹿ですから」
それが自分の子どもに対しての言葉だと知った瞬間、胸が締めつけられるような気持ちになりました。
このお父さんのもとで育っている子どもたちは、
“自分は価値がないんだ”
と自然に思い込んでしまうのではないか……そんな不安がよぎりました。
親御さんは、子どもがすくすく成長してほしいと願うものです。
しかし、その願いに子どもが今すぐ沿っていないと、焦りや不安から、つい“下げる言葉”が口から漏れてしまうことがあります。
けれど、考えてみてください。
自分はダメな人間だ。
そう思い込んだ子が、どうやって前に進む気力を持てるでしょうか?
古賀道場では、子どもたちが成長する「場」として稽古を行っています。
だからこそ、子どもたちにかける言葉には細心の注意を払っています。
学校も同じでしょう。
しかし──ご家庭ではどうでしょうか。
家庭は“日常の場所”です。
だからこそ、子どもたちが成長していく「場」としての意識が薄くなりがちです。
そのため、とても残念なことに、
無意識に子どもを傷つける言葉が乱用されてしまう
ことが起きやすいのです。
……身に覚え、ありませんか?

可能性を引き出す言葉
古賀道場における黒帯取得率は、実は 10%〜20% と決して高くありません。
では、残りの80〜90%の子どもたちはなぜ黒帯に届かなかったのか。
その理由は、“黒帯になる力がなかったから”ではありません。
ほとんどの子が 黒帯を取得する前に道場を去ってしまう──ただ、それだけなのです。
辞めていく理由はさまざまですが、可能性そのものを失ったわけではありません。
だからこそ、私は子どもたちにこう伝えています。
「黒帯取得率は100%です。
条件は、黒帯を取るまで稽古をやめないこと。」
この一言を伝えるようになってから、
不思議なほど、子どもたちに“前へ進む力”が湧いてくるのを感じます。
「自分にもできるんだ」と信じるだけで、足取りは確実に変わるのです。
実際に、この言葉を伝え始めてから、
途中で諦めずに継続する子が目に見えて増えました。
古賀道場の空手の稽古は、本当に“難しい”ものです。
和道流ならではの深い理合いは、子どもたちにとって理解も上達も簡単ではなく、
壁の連続です。
それでも──
「できる!」
この一言があれば、子どもたちは自分の力を信じることができます。
もし「無理」が、子どもの可能性を閉ざしてしまう“悪魔の言葉”だとすれば、
「できる!」は、可能性を無限大にまで引き上げる“魔法の言葉”。
それほどまでに、言葉には力があるのです。
言葉が人を育てるのです。
私には二人の子どもがいます。
二人とも今は成人し、姉は私の放課後デイサービスを手伝い、弟は共に空手指導をしながら子どもたちの成長を支えてくれています。
手前みそながら、二人とも親の私が心配することなく、まっすぐに育ってくれました。
思い返せば──
私も妻も、家庭で子どもを“下げて”育てたことが一度もありませんでした。
勉強が特別できたわけでもなく、空手もずば抜けていたわけではありません。
でも、叱り散らす必要もなく、無理に何かをさせる必要もなく、自然と成長していきました。
毎日のようにガミガミ叱られ続けた子どもが、
心をのびのび育てられるでしょうか?
植物は、太陽の光と十分な栄養を受けて、まっすぐに大きく育ちます。
子どもも同じです。
ガミガミ叱ることは“栄養”ではありません。
「お前はバカだ」と言われて、心が健やかに育つはずがありません。
私たち大人は、
子どもにとって何が“栄養”になるのか。
そのことを真剣に考えなければいけません。
子どもが自分の価値を信じられる言葉。
前を向きたくなる言葉。
未来を想像したくなる言葉。
それこそが、子どもを育てる“本当の栄養”なのです。

まとめ
子どもたちは、大人が思っている以上に、
周りから投げかけられる“言葉”を敏感に受け取ります。
そしてその言葉は、
子どもの心の中に静かに染み込み、
その子の「自己像」をつくり、
やがて「未来」を形づくっていきます。
「無理」と言われ続ければ、無理な自分をつくり、
「できる」と言われ続ければ、できる自分を信じられるようになります。
わたしたち大人が日々使う言葉は、
子どもたちの中で“栄養”にも“毒”にもなります。
だからこそ、言葉を選ぶことは、
子どもの未来を選ぶことと同じと言えるのです。
古賀道場では、
「無理」「死ぬ」という言葉を禁句にしているのは、
子どもたちの可能性を守るためです。
言葉ひとつで、
子どもは自分を信じたり、諦めたりします。
だからこそ私は、
子どもたちにはいつもこう伝えています。
「できる。」
「お前には力がある。」
「必ず成長できる。」
そして、親御さんにもぜひ知ってほしいのです。
子どもにとっての最大の伸びしろは、
才能ではなく、
日々かけられる“言葉”なのだということ。
未来を育てるのは、わたしたち大人。
その未来を支えるのは、わたしたちが選ぶ言葉です。
どうか、子どもたちの明日に、
力が湧く言葉が届きますように。
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コメント
完全に同感です。モルディブにいた時、日本語スピーチコンテストで、挨拶した時、参加者に同じ事を言いました。言葉は、人を生かす事も出来るし、殺す事も出来る。何語であっても、まず自分の気持ちを、整理して、丁寧に、相手に伝えてください。
コメントありがとうございました。
言葉を扱う生業と自覚して、更に言葉を上手に使っていきたいと思います。